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法律コラム

中小企業のM&Aにおけるファイナンシャル・アドバイザー・FA契約について
【中小経営者のためのM&A・事業承継講座 vol.9】
弁護士の藤間です。
日々、中小企業さまの事業承継・M&Aに関する法的アドバイスなどをする中で、中小企業の経営者さまに事前に知っておいてほしいM&A・事業継承の基礎知識をシリーズでお伝えします。
事業承継や中小企業のM&Aにおいて、近年「ファイナンシャル・アドバイザー(FA)」という存在が急速に注目を集めています。
一方で、「FAに相談したら安心」「専門家に任せていれば大丈夫」といった誤解から、契約内容を十分に確認しないまま進めてしまい、後でトラブルに発展するケースも少なくありません。
今回は、中小企業がFAと契約する際に実際に起きた“身近なトラブル”を紹介しつつ、どのように弁護士を活用することで、リスクを避けつつ円滑な事業承継を実現できるかを解説します。
FA契約とは?仲介とは違う「片側支援」の仕組み
まず、FAとは「売手または買手、いずれか一方の利益を最大化する」立場で、M&Aを支援する専門家です。
仲介とは異なり、双方の間に立ってバランスを取るのではなく、あくまで一方の立場で戦略を立て、候補企業の探索、価格交渉、クロージングまでを一貫してサポートします。
報酬体系は、「成功報酬型」が一般的ですが、着手金や中間報酬が発生するケースもあります。
こうした報酬や契約条件について、後々トラブルになる事例も少なくありません。
実際にあったトラブル:印刷会社のM&Aで起きた報酬トラブル
都内で30年続いた家族経営の印刷業者A社では、社長が70歳を迎え、後継者がいないことから事業売却を検討していました。
ある日、取引先の紹介で「M&Aに強い」と評判のFAと出会い、無料相談の流れで契約を締結することに。
FAからは「買手候補はすでに複数おり、3か月以内に成約できます」と言われ、契約書には「成功報酬3%、着手金30万円、中間報酬50万円」と明記されていました。
しかし実際には、3か月が過ぎても具体的な買手候補は提示されず、「相手企業と日程調整中です」「情報収集に時間がかかっています」といった報告が繰り返されました。
不安になった社長が契約解除を申し出ると、FA側から「途中解約でも、想定価格をベースに成功報酬相当額を支払う義務がある」と主張され、最終的には解約時に250万円の請求を受けたのです。
なぜこのようなトラブルが起きたのか
この事例では、「成功」の定義が明確でなかったことが最大の問題でした。
FA側は「買手企業との条件交渉に入れば成功」と解釈していたのに対し、社長は「契約が成立して譲渡金が支払われて初めて成功」と考えていました。
さらに、FAは「買手が見つかるまでは一方的に解除できない」とも主張しましたが、その根拠となる条項が契約書には明確に書かれていなかったため、双方の解釈が食い違ってしまったのです。
弁護士の関与の重要性:契約書レビューとトラブル回避
このようなトラブルは、契約締結の段階で弁護士が関与していれば、未然に防ぐことが可能です。
たとえば:
- 「成功」の定義を契約書に明記(例:最終契約の締結+譲渡金の支払い完了)
- 中途解約時の精算条項を整理(成功報酬の発生条件、請求上限)
- FAの業務範囲・調査義務・レポート提出義務を明文化
- 利益相反がないことの確約条項の追加
といった条文を整えることで、FAとの関係を明確化し、トラブルを避けることができます。
また、FAの中には「他の案件と並行して動いているため後回しにされていた」というケースもあります。
こうした状況を避けるためには、「業務における優先度」や「レポート頻度」なども契約に盛り込むべきです。
制度の動向:2026年度から資格制度も導入予定
2024年8月に経済産業省が発表した中小M&A推進に関する最新レポートでは、M&A仲介・FAに関して、2026年度を目処に資格制度導入を予定しているとされています。
(参考:中小M&Aガイドライン(第3版) -第三者への円滑な事業引継ぎに向けて)。
具体的には、以下のような方向性が示されています:
- クーリングオフ制度の導入
- 成果報酬に関する開示義務
- M&A支援専門家の倫理規程制定
- トラブル時の相談・監督窓口の整備
このような制度改革が進めば、FAとの契約の透明性は高まると期待されますが、法的拘束力が完全に担保されるまでには時間を要します。
だからこそ、弁護士による契約チェックが今後ますます重要になるのです。
FAの選定・契約には弁護士の目を
FAは、事業承継における重要な専門家の一つです。
ただし、すべてを任せきりにしてしまうと、知らないうちに不利な条件を呑まされてしまうこともあります。
弁護士は、FAの選定段階から、
- 契約条件のリーガルチェック
- 利益相反の排除
- 買手側との交渉支援
- クレーム時の対応方針立案
など、法的視点で伴走することができます。
特に中小企業のように限られた資源の中でM&Aを進める場合は、「後戻りできない契約」だからこそ、早い段階で弁護士のサポートを活用することが、将来の損失を防ぐ最善策となります。
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